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オーケストラ・アンサンブル金沢第474回定期公演フィルハーモニー・シリーズ(2023年11月30日)

2023年11月30日(木)19:00~石川県立音楽堂コンサートホール
1) ロッシーニ/歌劇「ランスへの旅」序曲
2) パガニーニ/ヴァイオリン協奏曲第4番ニ短調, MS 60
3)  (アンコール)パガニーニ/24のカプリース~第14番
4) ロッシーニ/歌劇「絹のはしご」序曲
5) シューベルト./交響曲第7番ロ短調, D 759「未完成」
6)  (アンコール)ブラームス/ハンガリー舞曲第5番
●演奏
ギュンター・ピヒラー指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:町田琴和)*1-2,4-6,岡本誠司(ヴァイオリン*2-3)

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演フィルハーモニーシリーズを石川県立音楽堂コンサートホールで聴いて来ました。指揮はお馴染みの...と書きつつも結構久し振りの登場となるギュンター・ピヒラーさん,独奏は若手ヴァイオリン奏者の岡本誠司さんでした。

今シーズンのOEK定期公演は「レジェンド・シリーズ」といった趣きがあり,マルク・ミンコフスキさん,井上道義さんといった歴代の音楽監督(芸術監督)が登場しますが,今回登場したピヒラーさんも,その一人。OEKと初共演してから約25年。2001~2006年は首席客演指揮者として,OEKのサウンドを磨き上げてきた指揮者の一人です。

プログラムはロッシーニの序曲×2+パガニーニの協奏曲+シューベルトの「未完成」交響曲というもので,19世紀前半のウィーンの音楽界の気分を再現するような趣向でした。ピヒラーさんは前回登場した2016年の定期公演でも,ロッシーニの序曲2曲を前半・後半の最初に配置するプログラム構成でしたので,ピヒラーさんお得意の構成と言えそうです。

演奏会は,ロッシー二の歌劇「ランスへの旅」序曲で始まりました。ピヒラーさんは既に80歳を超えているはずですが,その動作は以前と全く変わなることのない無駄のない動き。この姿を見て,まず嬉しくなりました。音楽の方も,大げさにはしゃぐ感じはなく,かっちりと引き締まった,端正さとまとまりの良さを感じました。

ロッシーニの序曲では,オーボエが主役の歌手のようにソリスティックに活躍する曲が多いのですが,この曲もそのとおりでした。序奏部に出てくる,加納さんのオーボエには,ロマンティックな空気感があり,美しくアリアを歌っているようでした。その後,エコーのようにいくつかの木管楽器が応答。いかにもロッシーニらしい音楽が続いた後,主部に入るとどこかおっとりとした感じに。シューベルトの「ロザムンデ」序曲などに通じるような可愛らしさのある曲だなと思いました。これまたお得意のクレッシェンドもどこかおっとりしている感じでした。

続いて,岡本誠司さんのヴァイオリン独奏で,パガニーニのヴァイオリン協奏曲4番が鮮やかに演奏されました。この演奏は,この日の白眉だったと思います。岡本さんは,ARD第70回ミュンヘン国際音楽コンクールのヴァイオリン部門1位受賞者ということで,個人的には,ドイツ音楽を得意とする方という印象を持っていました。その点でパガニーニ(しかも協奏曲第4番)という選曲は少々意外だったのですが,その技・技・技の連続を浮ついた感じにすることなく,純音楽的にビシッと聴かせてくれたヴァイオリンは,本当に見事でした。

ちなみにこの日岡本さんは演奏する際,足元に「何か」を置いて演奏されていました。「踏むとタブレットに表示されている譜面をめくれる」装置だったようです。パガニーニのような超絶技巧の作品の場合,大いに役立ちそうです。その一方,譜面を見て間に合うのだろうか?という気もしますね。一種,お守り的なものでしょうか。

第1楽章は,いきなりセンチメンタルでとても分かりやすいメロディで開始。弦楽パートの音は少し甲高い感じで,短調だけれども深刻な感じがないのは,パガニーニらしいところです。オーケストラはトロンボーン3本が入る意外に大きな編成で,協奏曲第1番などと同様,かなり長い序奏部があります。その後,満を持して岡本さんのヴァイオリンが登場。力強く,キリッと締まった音で,どこかほの暗さがあるのが印象的でした。技巧を誇示するというよりは,じっくりと歌わせ,じっくりと技を披露するといった感じの演奏でした。

いかにもパガニーニらしい重音が出てきたり,技のデパートといった感じで各種技巧を散りばめて音楽は前に進んでいくのですが,どこをとっても乱れる部分はなく,きめ細かさと美しさをじっくり味わうことができました。カデンツァは岡本さん自身によるもので,パガニーニのカプリースの中のいくつかの曲のフレーズが次々出てくるような感じでした。激しさはあるけれども,熱狂することはなく,しっかりとコントロールされた音楽になっているのが素晴らしいと思いました。

第2楽章もほの暗い静かな気分で開始。岡本さんは,スリムだけれども磨かれた音でしっかりとした歌を聴かせてくれました。緻密さのあるヴィブラートの効いた音には充実感があり,楽章全体が,そのままオペラのアリアになっているようでした。

第3楽章は…協奏曲第2番の第3楽章とそっくりの雰囲気で開始。もっと分かりやすく言うと…「ラ・カンパネラ Part.2」とタイトルを付けたくなるような楽章でした。しかし,ここでも曲芸的な感じにはならず,優雅な舞曲のように響いていました。軋むような音が出てきたり,ハーモニクスが出てきたり…次々とパガニーニお得意の語法が出てくるので,「ワンパターン」と言われればそうなのですが,それぞれに鮮やかさがあり,難関のチェックポイントを一つずつクリアしていくような楽しさを感じました。楽章の最後は長調に変わり,トランペットやトロンボーンも活躍。ピヒラー指揮OEKも余裕のサポートで,最後はじっくりとした味わいの中で全曲が締められました。

当然,アンコールも演奏されました。演奏された曲は,カプリースの中の第14番でした。ちょっと軍隊ラッパを思わせるようなフレーズは,演奏されたばかりの協奏曲のカデンツァの中に出てきたもの。巧い選曲だなぁと思いました。ちなみにこの曲の時,ピヒラーさんも打楽器奏者の空いた席に座って聴いていらしゃいました。以前にも協奏曲後のアンコールの時,こういう感じで「お客さん」になっていたことがあったなぁ,と昔のことを思い出しました。

この日は仕事帰り(夕食はまだ..)だったので,休憩時間中はコーヒーで一息つきました。
金澤ちとせ珈琲さんのコーヒーでした。
遠くて見えないと思いますが,演奏を終えたばかりの岡本誠司さんが,
Junichi Cafeのエプロンをして登場していました。

後半はロッシーニの歌劇「絹のはしご」序曲で開始。くっきりとした弦楽器の音で始まった後,この曲もオーボエのソロで開始。後半は橋爪さんが第1オーボエということで,前半と後半で2人のオーボエを聞き比べることができました。オーボエに続いてフルートも活躍していましたが,この日は11月からOEKのフルート奏者になったばかりの八木瑛子さんのお披露目のような感じで第1フルートを担当(この曲ではピッコロも持ち替えていましたね)。堂々とした音楽を聴かせてくれました。

八木さんの紹介記事です。八木さんはジャパン・ナショナル・オーケストラ(JNO)のフルート奏者として活躍されていますが,岡本誠司さんはJNOのコンサートマスターということで,旧知の仲の方のようです。

サイン会では,オーボエのお二人が登場されていたので,しっかり各曲横にサインをいただいてきました。

主部に入ると,ここでもオーボエが活躍。橋爪さんのオーボエによる,じっくりとした歌を聴きながら,なぜかロッシーニは料理が得意だったのだなということを思い出しました。ピヒラーさんの作る音楽は,全体的にどこか控えめでケレン味もないのですが,しっかりと味の染みた「ロッシーニ風」となっていました。

後半の最後の曲は,シューベルトの「未完成」交響曲でした。全曲の最後,静かに終わる曲なので演奏会最後のメインプログラムに持ってくるには,少々冒険的な部分もある曲ですが,ピヒラーさん指揮の音楽作りには”枯淡の境地”といった趣きがあり,大げさになることのない室内楽的な充実感を感じることができました。個人的にも,ピヒラーさんとの久し振りの再会をしみじみとかみしめるような気分で聴いていました。

第1楽章は,大げさすぎず,平静な気分で開始。その音楽には,室内オーケストラに相応しいコンパクトさがあり,室内楽の延長のでした。チェロによる第2主題も「甘さ控えめ」で,優しくさらっと聴かせてくれました。提示部の繰り返しは行っていました。派手に音楽を鳴らさず,しっかりと曲の形を見せてくれるような感じで呈示部が演奏された後,展開部では,ぐっと音楽の深みを増し,濃い表情付けがされていました。その凄みをもった表現はピヒラーさんらしいなぁと思いました。再現部になると,再びさりげなく美しい音楽が流れていく感じになりました。第1楽章の最後の音を「どう演奏するか?」は,曲のチェックポイントの一つですが,今回はあまり長く伸ばさずに,楽章最初の平静な気分に立ち返ったような感じで終わっていました。

第2楽章も速めのテンポで,スッと流れるように開始。歌いすぎることなく,かなりあっさりとした感じの演奏でしたが,そこにさりげなく暖かみが漂っていました。ピヒラーさんとOEKメンバーとのつながりの深さを感じさせてくれるようでした。そして,この楽章の聞き所は,クラリネット,オーボエ,フルートによる美しいメロディの受け渡しだと思います。この曲の第1クラリネットは山根孝司さん(NHKで放送されている,N響の定期演奏会の放送などでおなじみ)でしたが,ソリストのようにくっきりとした音を聞かせてくれました。全曲を通じて木管楽器が自然かつ鮮やかに浮き上がって聞こえてくる演奏だったと思います。楽章の後半,音の厚みが減り,段々と透明感を増していく感じのところがありますが,自然な流れの中でしんみりとさせてくれました。楽章の最後の部分も速めのテンポであっさりと演奏していましたが,それだからこそ何とも言えない儚さのようなものが伝わってきました。

この枯淡の境地の「未完成」の後,何をアンコールで演奏するのかな,と思っていたら打楽器奏者が入ってきて,ブラームスのハンガリー舞曲第5番が演奏されました。こちらも大げさな緩急の変化をつけないあっさりめの演奏の演奏でした。「未完成」の余韻を受けるには,これぐらいで丁度良いかなと思いました。

終演後は,上述のOEKの2人のオーボエ奏者に加え,ピヒラーさん,岡本誠司さんによるサイン会がありました。この公演は,コロナ禍の影響で延期された公演ということで,ようやくピヒラーさんに再会できた喜びをしみじみとかみ締めることができました。声高になることなく,音楽する喜びを実感できた公演でした。

岡本さんと反田恭平さんが共演した,ブラームスの曲などを集めたCDにサインをいたただきました。
ピヒラーさんがOEKを指揮したCDには既にサインをいただいているので,アルバン・ベルク四重奏団時代のCD(EMIでなくTELDECレーベル時代の大昔の演奏)にサインいただきました。

PS. 石川県立音楽堂周辺もすっかりクリスマードムードになっていました。

石川県立音楽堂玄関のツリー
クリスマスコンサート&クリスマス飾りの下はニューイヤー
ANAホテルのツリー
ホテル日航金沢のツリー
これもホテル日航金沢
これもホテル日航金沢



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